電気計測器 ヒストリカル エピソード
第14話 おわりに =電気の精=
これまで何度か述べてきたとおり、電気計測器はあらゆる産業のマザーツールとして、時代の節々で産業を支え、産業の発展とともに進化してきた。 さらに昨今では、産業だけに止まらず人々の生活に密着した安全、安心を支えるツールとして、また地球環境の保護用ツールとしてますますその重きをなしているように思える。 前項で紹介した騒音計や照度計などは、我々人間が体感する感覚量(聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚)を定量化するツールとして既に様々な生活現場で応用されているし、ようやく緒についたばかりの味覚計測(塩分計、糖度計など)や匂い計測(嗅覚計)などについても、早晩、工業製品としての標準化の要求が出てくるだろう。
その意味では、現場測定器の新しい幕開けが今始まろうとしているのかも知れない。
下の写真はご存知の方も多いと思うがフランスの印象派画家 ラウル・デュフィ(Raoul Dufy 1877 - 1953)が1937年5月、パリ万国博覧会の電気館を飾るに当たってパリ電気供給会社から依頼を受けて描いた「電気の精 La Fee Electricite 」と呼ばれる壁画である。 実物は縦10メートル、横60メートルの大作でパリ市立近代美術館に常設展示されている。
依頼を受けたデュフィは弟のジャン・デュフィとともに電気の歴史から始まって、電気が産業界や人々の生活にどう関わっているのかを約一年かけて調査し、自分自身でも具体的な事例を見聞して描いたと言われている。
壁画の上半分は電光、虹、嵐、陽光といった自然現象と産業の調和を描き、下半分は右から左へ時間の推移とともに紀元前のタレスから1930年代のエジソンまで110人(109人と言う説も)の科学者、技術者が描かれている。 本編で最初に登場するボルタはボルタの電堆とともに右から3分の1付近に、またファラデーはほぼ中央に誘導コイルのようなものと一緒に描かれている。
そして最終の左端にはエッフェル塔やビッグベンを照らすまばゆい光の束の中に、美しい電気の妖精が未来に向かって飛び立っている。 電気の限りない可能性を示唆するかのように・・・。




本稿を執筆するにあたって、関係各社の社史、製品カタログ等多くの文献を参考にさせていただいた。 また、東洋計測器(株)社長 八巻秀次様には、ヒストリック・ギャラリーの運営、製品の収集等に多大な援助を賜っており、この場を借りて心よりお礼申し上げます。
- 青木 晋、友田三八二 共著 「電気計器(上・下)」 修教社書院 1938年
- ファラデー 矢島祐利 訳 「ロウソクの科学旧版」 岩波文庫 1940年
- ファラデー 竹内敬人 訳 「ロウソクの科学新版」 岩波文庫 2010年
- 高木純一 電気の歴史 オーム社 1967年
- 竹内 均 編集 「世界の科学者100人(Newton特別版)」 教育社出版 1990年
- 松本栄寿 「遥かなるスミソニアン」 玉川大学出版部 1997年
- 松本栄寿、小浜清子 訳 「電気の精とパリ」 玉川大学出版部 1999年
- 小山慶太 「ファラデー 実験科学の時代」 講談社学術文庫 1995年
- 小山慶太 「科学史年表」 中公新書 2003年
- 阪上 孝、後藤 武 共著 「<はかる> 科学」 中公新書 2007年
- 矢島祐利 「科学の歴史(上・下)」 岩波書店 1971年
- 橋本萬平 「科学史の横道」 日本古書通信社 2008年
- 福田益美 「電磁波を拓いた人たち」 丸善出版 2008年
- 松本栄寿 「インスツルメンツの歴史(計測と制御の機器を中心に)」 オートメーション
- 電気計測器産業のあゆみと展望(日本電気計測器工業会 創立50周年記念) 1998年
- 横河電機50年史
- 日置電機50年史
- 岩崎通信機50年史
- アドバンテスト40年のあゆみ
- 菊水電子工業50周年記念号
- リオン15年/30年/50年の歩み
- 電気の史料館 横浜市鶴見区江ヶ崎町4-1 045-394-5900
- でんきの科学館 名古屋市中区栄二丁目2番5号 052-201-1026
- 科学技術館 東京都千代田区北の丸公園2-1 03-5777-8600
- 島津創業記念資料館 京都市中京区木屋町二条南 075-255-0980