電気計測器 ヒストリカル エピソード

第13話  環境計測の高まりと騒音計、照度計の今昔

これまで電流、電圧、抵抗、周波数計など電気信号を中心とした計測器について紹介してきたが、ここでは一寸視点を変えて、近年関心の高まっている騒音や照度など電気以外の物理量を測定する計測器について、そのルーツを探ってみたい。


初期のオージオメータ(リオン製)

先ず、音の大きさを測定する騒音計は、オージオメータと呼ばれる耳鼻咽喉科系の補聴用計測器がそのルーツとみられ、1940年代から50年代にかけて米国ゼネラル・ラジオ社(General Radio Inc. )や、日本の小林理学研究所(現リオン株式会社の前身)、横河電機等によって製品化が試みられてきた。

その後、1950年代を境に人口の都市集中化による工場騒音や交通騒音などがクローズアップされるようになり、その対策用計測器として騒音発生現場に直接持ち込んで計測できる小型騒音計の有用性が検討されはじめた。

そのきっかけとなったのが、1953年、オランダで開催された第一回国際音響学会に参加した当時の日本音響学会会長、佐藤孝二によって持ち帰られたGR社製品の国産化であった。 その結果、前述のリオンや横河から相次いで新製品が発売され、各都市の騒音取締り用として、また機械設備の防音・消音設計用として活用された。

初期の小型騒音計(リオン製)

さらに、1952年には騒音計のJIS規格 B‐7201(現在はC‐1502とC‐1503に改定)が新たに制定され、いわゆる工業用計測器として標準化されていった。 また、騒音の単位についても統一化の動きが始まり、計量法によって「ホン」と定められたのもこの時期である。

1960年代にはこの騒音計を使って交差点の騒音レベルを表示するなど、生活に密着した計測器として進化し、最近では規格、基準の国際化の流れをうけて、新しい国際規格IECー61672が制定され、世界規模での騒音計測が行われている。

最新の騒音計(右下 リオン製)とモーターバイクの騒音テスト風景


ブンゼン(上)と
ブンゼンバーナー(下)

一方、光の明るさを測定する照度計は1843年、ブンゼンバーナーで有名なドイツの化学者 ブンゼン( Robert Wilhelm Bunsen1811-1899 )が発明した光度計がそのルーツとみられる。 それは光度計といっても極めて簡単なもので、未知の光源と既知の光源(標準ロウソク光)を凡そ1メートル程度離し、その間に油を一滴落とした白紙を挟む。 この白紙の位置を前後に動かして油のスポットが消える位置を見つけ、白紙の位置と標準ロウソクの光度から未知の光源の明るさを算出するというものだった。


近代計測器としての工業用照度計は、このブンゼン光度計から凡そ100年以上も経過した1940年代、セレンを使った光電センサーに、LUX目盛を施した直流電圧計を組み合わせたものが始まりとみられる。 その後、1950年代から1960年代にかけて、アモルファスやフォトダイオードなど新しい光電素子が開発され、量産体制も確保されるようになってきたこと、および照度計のJIS規格(C-1609 1960年)が制定されたことなどから、騒音計とともに環境用測定器としてその存在感を増すこととなった。

また、製品自体の機能、性能面での標準化がすすめられる一方で、照度に関する基準や測定方法などについても規格化が始まり、1958年3月、広範な生活場面を想定した照度基準が、1968年には照度の測定法が夫々制定され、工場や職場の作業環境、店舗や住宅の照明設計、高速道路の照明管理等に利用されるようになってきた。

さらに今日では複雑化する照明システムに対応するため、照度とともに光源となる光の色も合わせて測定できる輝度計や色彩照度計へと進化を続けている。


1960年代の照度計(左)
と最近の照度計(右)
いずれも横河電機製
(2011/6/1掲載)
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