電気計測器 ヒストリカル エピソード

第10話  エレクトロニクス新時代に対応した周波数カウンタ
= トンネルダイオードを採用した世界最高速の国産カウンタ誕生 =

周波数を測定する計測器は、電気計測器の中でも最も古くから存在するものの一つである。そのルーツは1889年、イギリスの物理学者エアトン( William Edward Ayrton 1847-1908 )によって考案された機械式(振動片共振型 Vibrating reed type)とみることができる。

William Ayrton 1847-1908

振動片共振型周波数計

ヘテロダイン周波数計
(1960年代 三田無線研究所製)

当初は主として交流発電機の発電周波数40-200Hzを測定する目的で開発されたが、その後1920年代になると、ようやく実用化の兆しが見え始めたラジオ放送や無線通信などの新しい電子技術の出現によって、より高い周波数を正確に捕捉できる本格的な周波数計が求められるようになってきた。

その要求に応えたのがヘテロダイン周波計( Heterodyne frequency meter ) と呼ばれるもので、未知の入力周波数と既知の局部発振器との間でビートをとることによって数十キロヘルツから数百メガヘルツの高周波測定を可能とした。 しかしこの周波数計はビートの零点検出など、操作面での難点が多く、ある程度習熟した技術者でないと十分使いこなせないと言う欠点もあった。 この壁を破ったのが、1951年 ヒューレット・パッカード社から発売された10進計数器による計数型高周波カウンタで、それまで数分以上かかっていた測定時間を一挙に秒単位まで短縮したものとして大いに注目された。 周波数計(Frequency Meter)が周波数カウンタ(Frequency Counter)に進化した瞬間である。


周波数カウンタは、エレクトロニック・カウンタとかユユニバーサル・カウンタとも呼ばれ、無線機器の生産には欠かすことのできない存在となるが、当初は通信産業の発達した欧米、とくにアメリカのメーカーが世界をリードしており、周波数カウンタの大半はアメリカからの輸入品に頼らざるを得なかった。

10進計数器を使用した
我国初の周波数カウンタ
(1957年 タケダ理研工業製)

その国産化にチャレンジしたのが、当時ユニークな技術者集団として注目されていたタケダ理研工業(現エーディーシー社)である。 タケダ理研は先ず1957年、真空管を使用した30kHzの真空管式カウンタを手がけ、その一年後の1958年にはネオンランプの数字列表示を使った1MHzまでのエレクトロニック・カウンタの生産に成功する。

さらに4年後の1962年にはトンネル・ダイオード(エサキ・ダイオード)を採用した当時では世界最高速の100MHzカウンタ(直接計数方式)が次々と開発され、一気に世界のトップレベルまで駆け上っていった。

トンネル・ダイオードを採用した
世界最高速100 MHzの
エレクトロニック・カウンタ
(1962年 タケダ理研工業製)


江崎玲於奈と
トンネルダイオードの特性

トンネル・ダイオードの発明者、江崎玲於奈は1925年、大阪にて誕生。 1947年、東京帝国大学理学部物理学科を卒業し、川西機械製作所(後の神戸工業株式会社)に入社した。 当初は真空管の研究を主力としていたが、1956年 ソニーの前身である東京通信工業(東通工)に移籍し本格的に半導体の研究に着手することになった。


東通工に移った江崎は、当時製造していたゲルマニウムトランジスタの不良に悩まされ、その原因を解析する過程において、偶然にも不純物濃度を高くしたゲルマニウムのPN接合幅を薄くすると、その電流-電圧特性はトンネル効果による影響が支配的となり、電圧を大きくするほど逆に電流が減少する負性抵抗を示すことを発見した。

彼はこれを1957年10月の物理学会で報告したが、反応は捗々しいものではなかったという。 そこで翌1958年、今度はベルギーのブリュッセルで開かれた国際物理会議で発表することになったが、この時は超満員の聴衆で会場が膨れ上がり、レオ・エサキの名前とともにトンネル・ダイオードは一躍時代の寵児となった。

勿論、日本でも大きく取上げられ、ソニーの株価が一時ストップ高になるほど高騰したという。


1960年代後半になると、世界各国において周波数カウンタの多桁表示化、高周波化競が激化し、1968年にはギガヘルツ(GHz)の領域へ、そして1974年には11桁26GHzまで広帯域化が進んだ。 これに対し、一方では低い周波数を短時間で正確に測定したいと言う要求も根強く、そのための高速測定技術の開発もほぼ同時に進められていた。 1970年代後半には、やはりタケダ理研工業より、従来の測定スピードの100倍以上に相当する「0.1Hz/0.1秒」という超高速カウンタが商品化され、我国電子工業の水準の高さを内外に示したものとして注目された。


ニキシー管を使用した初期のカウンタ
  左:アンリツ電子計器(1967年製)
  右:シストロンドナー社製 2GHzカウンタ(1973年製)
(2011/6/1掲載)
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