電気計測器 ヒストリカル エピソード

第1話  はじめに =ボルタの電堆=

雷や静電気のように自然界に存在する電気は別として、我々人間が意図的に創り出した電気は、1799年イタリアの物理学者 アレッサンドロ・ボルタ(Alessandro Volta 1745‐1827)によって発明された「ボルタの電堆(電池)」にその原点を見ることができる。


ボルタ伯爵
Alessandro Volta

ボルタは1745年、イタリアアルプスの麓コモで絹織物業を営む家庭に生まれた。 若い頃から雷などの自然(電気)現象に興味をもっていた彼は、1791年、当時評判となっていたガルバーニの生物実験による放電現象(生体電気)をさらにすすめ、生物でなくても水や食塩水などの溶液を銅や鉄といった異種金属で挟めば同じ効果があることを尽きとめた。
その後彼はさらに実験をすすめ、金属も亜鉛、錫、銀、白金などに広げ、最終的には電解液に浸した布を、銅と亜鉛で両端を挟んだ円板を何段も積み重ねた円柱(電堆)を作りあげた。 世界で初めて継続的に定常電流を得る装置の誕生である。

ボルタはこの発明で一躍有名になり1801年フランスのナポレオン1世に招かれ、実際にこの電堆を使って水の電気分解実験を行っている。 科学好きのナポレオンは大変喜び、ボルタに金メダルと勲章を与え、更に1810年には爵位(アレッサンドロ ジュゼッペ アントニオ アナスタージオ ヴォルタ伯爵)を授け北イタリア ロンバルジア王国の元老院議員に任命したと言われている。


ボルタは1819年、74歳でパビア大学を引退し、1827年、故郷において82歳の生涯を終えた。ボルタの発明はその後訪れる新らしい電気時代の幕開けを予感させ、ワットが開いた「蒸気機関の18世紀」に対し、「電気と磁気の19世紀」と呼ばれるようになった。 そして、ボルタの電堆は彼の死後、多くの物理・化学者によって更なる研究、改良が行われ、その後の電気磁気学発展に大きく貢献、ボルタは電気学の始祖として尊敬されることとなった。

1874年、英国科学振興協会(BAAS)は彼の功績を後世に伝えるため、彼の名前に因んで電圧(起電力)の単位をボルト(Volt)と定め、1881年、国際電気会議によって承認した。


ボルタの電堆
ナポレオンの御前で
実験するボルタ
ボルタ電堆発明のきっかけとなったガルバーニの蛙実験

電気計測器は目に見えない電気を可視化したり、定量化したりしてその大きさや性質を解明する手がかりを提供する、いわゆる「電気のものさし=マザーツール」である。 そこにはテレビの面白さも調理家電のような便利さも求めることはできない。 しかし全ての産業の発展には必ず電気計測器が関与し、陰で支えているという事実を忘れてはならない。 本編では限られた一面ではあるが計測器の開発や普及に携わった先人達の人となりを紹介してみたいと思う。


テーマとしては比較的一般性の高い「汎用現場測定器」を中心に、あまり学問的な価値観にとらわれず、製品のルーツや、活躍した時代背景、関連する人物のエピソードなどを織り交ぜてみた。 計測器に携わった方々には昔懐かしい製品も登場するので、四方山話の一助になれば幸いである。

本稿で紹介した製品を実際にご覧になりたい方は、東京・秋葉原にある計測器ランド(東洋計測器株式会社)のヒストリック・ギャラリーを是非一度見学されることをお奨めする。 計測器メーカーで長年活躍したOBで構成された「計測コンシェルジェ」の方々が毎日交代で勤務しているので、懇切丁寧な説明が受けられる。

なお、展示内容は定期的に入れ替えが行われているため、全ての製品を見ることができない場合もある。


計測器ランド ヒストリック・ギャラリー 東京都千代田区外神田1-3-12(東洋計測器内)


(2011/6/1掲載)
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