電気計測器 ヒストリカル エピソード

第12話  天才科学者ケルビンと記録計の開発
= ケルビンは故郷の川の名前だった・・・? =

汎用電気計測器としての本格的な記録装置の登場は、前述した1900年代初めのオシログラフであるが、そのルーツを辿ると北アイルランド生まれの科学者ウイリアム・トムソン( William Thomson 1824‐1907)、後のケルビン卿によって発明されたサイフォン・レコーダに到達する。

ケルビン卿
(Lord Kelvin)

その構造は、インク壺のインクが細いガラス管(これがペンとなる)を伝ってサイフォン作用によって記録紙まで導かれるペン機構、入力の変化を検出するアーマチュアと、アーマチュアの動きを細い絹糸によってペンに伝える駆動機構、記録紙を一定速度で送りだす紙送り機構から構成されており、ほぼ現在の直動式記録計に近い構造であったと考えられる。

サイフォン・レコーダはその後多くの先人たちによって改良が重ねられ、現在のような記録計を生み出すきっかけとなったが、その進化の過程では大きく二つに枝分かれしている。

初期の直動式記録計

自動平衡式記録計(12点)

自動平衡式記録計の応用
(X-Yレコーダ)

一つはペン書きオシログラフであり、もう一つは自動平衡式記録計(Automatic null balanced recorder)である。

ペン書きオシログラフはガルバノメータ(Galvanometer)と呼ばれる駆動機構にペンを直結し、入力信号をリアルタイムに記録するもので、当初はガルバノメータの固有振動数やペンの応答速度などから、比較的変化の遅い機械現象の記録に用いられていた。 1960年代以降になると、従来のインク書きに加え、静電方式、感熱方式、光学方式、スクラッチ方式などバラエティに富んだ記録方式が開発され、ペンの追従速度も大幅に改善されたため、新幹線の開発や自動車メーカーの新車試験における走行データの収集に活躍した。


この直動式に対して、1950年代後半からポテンショメータと同じヌルバランスを応用した差動式記録計(後に一般的に自動平衡式記録計と呼ばれるようになった)が登場し記録計のバリエーションが更に拡大してきた。 この自動平衡式記録計は記録精度が高いこと、入力チャンネルが多いことなどから、データロガーなどと同様に複数信号の相関関係を解析したい場合などに極めて有用なツールであり、今日現在でも広い分野で使用されている。

1980年代以降は、実際の記録面の代わりに液晶画面を使ったビジュアルレコーダ、大容量メモリーを内蔵したサンプリングレコーダ(ハイブリッド・レコーダ)、ネットワーク対応型のオンラインレコーダ等々、新しいニーズに対応した新しい記録計が次々と商品化されている。


とくに1983年、日置電機から発売された「メモリー・ハイコーダ」は、記憶素子を組み込んだ現場型レコーダとして、当時最も進化したもので、その記録性能、移動性などの特長から多くの計測現場で大好評を得た。 今日ではその特長に加え、安全性、堅牢性、操作性等に更なる改善が図られたことによって、より一層過酷な使用条件に耐え得る万能型現場記録装置に生まれ変わってきた。

最新の国産記録計
  右上:メモリー・ハイコーダ(2010年 日置電機製)
  右下:ハイブリッド・レコーダ(1992年 横河電機製)

トムソンはその後も物理学や電気工学の分野で大きな足跡を残しており、1890年、英国王立協会会長に、1892年には爵位を授与されケルビン卿となった。


ケルビン(Kelvin)の名はトムソンが若い頃研究生活をおくったグラスゴーにあるケルビン川に因んでつけられたもので、温度(熱力学)を表す国際単位系(単位記号 K)として、とくに科学分野で広く使用されている。

(2011/6/1掲載)
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