電気計測器 ヒストリカル エピソード

第8話  電磁オシログラフの開発と国産技術の進歩
= ベルギー海洋万博での名誉大賞受賞の快挙 =

ブラウン管の発明以前に交流波形を観測、記録できる唯一の計測器として、世界中で幅広く使用されていたものにガルバノメータ型電磁オシログラフと呼ばれるツールがある。 その基本原理は1893年、フランスの物理学者アンドレ・ブロンデル(Andre-Eugene Blondel 1863 ? 1938)によって考案され、その後イギリスの物理学者であり電気工学のエンジニヤであるダッデル(William Du Bois Duddell 1872 - 1917)によって実用化された。


アンドレ・ブロンデル


ウイリアム・ダッデル(上)と
彼の考案したオシログラフ

ブロンデルの定理を応用
した三相電力計

ブロンデルはこのガルバノメータオシログラフについて、高速で変化する物理現象を解析するため、その波形を正確に捉え、記録する電気光学システムと位置づけており、その後ダッデルによって「迅速に変化する入力電流を振動子(Vibrator)と呼ばれる固有振動数の高い可動コイル型ガルバノメータで捕捉し、これに連動する光の波を回転ミラーで反射させながら目視観測したり、写真用印画紙に焼き付けたりして波形観測を行う」現在の電磁オシログラフに仕上げられた。 彼は、さらに可動コイルの制動特性をよくする手段として、振動子の中にダンピングオイルを注入することを考え、オシログラフ全体の記録性能を向上させることにも成功した。

1897年、ダッデルが研究論文を発表すると早速イギリスのケンブリッジ・サイエンティフィック・インスツルメンツ社(Cambridge Scientific Instruments Co.)が製品化し、更に1900年代にはいると、アメリカのゼネラルエレクトリック社、ウエスチングハウス社、ドイツのジーメンス社等が続けて生産を開始した。


ブロンデルのもう一方の功績は「ブロンデルの定理」と呼ばれる「多相交流の電力は送っている電線の数がN本のとき、N-1台の電力計で測定することができる」という極めて有用な発見で、現在わが国で市販されている三相電力計の大半はこの定理を応用した2電力計法を採用している。



我国における電磁オシロの生産は1924年、横河電機が輸入品の半分くらいの値段(と言っても現在の貨幣価値に換算すると一千万円以上はする代物だった)で国産化に成功、1960年代の直記式電磁オシロやブラウン管オシロの登場まで約半世紀、日本中の研究所や大学で大いに活躍した。 1930年にはベルギー独立100周年記念のイベントとしてアントワープにて開催された海洋万国博に出展され名誉大賞を受賞、我国の技術レベルの高さを世界に誇示した出来事として特筆される。


ベルギー万博で大賞を受賞したものと同型の3素子型電磁オシログラフ (1930年代 横河電機製)

直記式電磁オシログラフ
24チャネル型(横河電機1985年製)

その後電磁オシログラフは光源に輝度の高い高圧水銀灯を、また記録紙には紫外線感光紙を採用するなどの改良が進み、従来不可欠とされていた暗室での現像作業を全く必要としない直記式記録装置として進化を遂げてきた。

同時に振動子の小型化や周辺機器の開発などによって、多チャンネルのデータ収録装置としての認識が広まり、メカトロ分野を中心に、医療、土木交通などの広い試験分野で活躍してきた。


ブロンデルによって考案された19世紀の技術は、光学、機構両面において新しい手法を導入しながらも21世紀の今日まで引き継がれている。


左は直記式電磁オシログラフの記録
メカニズム(光学系)と振動子外観
(直径7‐8mm、長さ約100mm)

振動子は固有振動数が数百Hzで高感度のものから、感度は低いが固有振動数が7‐8kHzと高いものまで数種類用意されており、入力信号によって最適なものを選定して使用する。
(2011/6/1掲載)
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